ミュールジングをめぐる一考

世界のウール生産の30%を占めるオーストラリアの羊毛業界では、1930年代からずっと羊飼育の際にやってきた「ミュールジング」という処理があるそうです。


羊毛を沢山採るため皮膚面積が多くなるよう品種改良されたメリノ種。
そのお尻の皺にハエが卵を産み、孵化した蛆が羊の肉や内臓を食べ進めて羊が苦しみながら死んでしまうという「ハエ蛆症」を防ぐ為に、子羊のうちにお尻の毛と肉を刃物で削ぐ処置だそうです。
麻酔はしません。

アメリカの動物愛護団体PETAの抗議により、オーストラリアのウール業界は2010年までにミュールジングの廃止を約束していたのですが、どうやらその後撤回しているらしいす。

H&M、ヒューゴ・ボス、アバクロンビー&フィッチ、ティンバーランド、GAP、無印、ユニクロ
といったウールを大量消費する会社がこのミュールジングを施した羊の毛を使わないと宣言したことはとても大きなことです。
大々的に広告を打っている企業がこういった方針を打ち出せばそれで初めて事実を知る人も多いし、生産側も考え方を変えざるをえないですからね。

私の使用しているタスマニアウールとウルグアイウールは元々やってないそうです。
でも動物から素材をいただくってことは、ミュールジング以外にも人間の都合で動物に負担を強いていることが多々ありそうです。
大きな羊牧場では麻酔無しの去勢手術が問題にもなっています。

タスマニアの小さな牧場は、毎年日本へ輸入してくれていた個人の方が牧場見学レポートをくださっていて安心でしたが、全ての輸入元がそれを行うには無理があるし、そんなに環境の良い羊牧場は稀なのかもしれません。

これも最近知った、ダウン(羽毛のね)の採取時の虐待問題も然り、何でも大量生産しようと思うと当然無理が出ますよね。
食用肉も羽毛もウールも、動物たちへの虐待を止めて手間のかかる飼育をして値段上がって買う人が限られて代用品が増えていく…ことは今すぐには考えられないけど、せめてもの情報公開は欲しいし、自分の食べる物や身に付ける物を知った上で選択できるとちょっとずつでも全体が変わるのかなとは思います。

しかし、この問題、ミュールジングを止めたとしてそのハエ蛆症をどうやって防ぐかが気になりますよね。
代替でPP製のクリップがあるらしいのですが、これも子羊に苦痛を与えるとか。

で、これまた混乱しちゃう話なのですが、GOTSっていうオーガニック認証の機関が「いくらオーガニック飼育の羊でもミュールジングはNGでは?」という協議を機関内でしていた時の話。
オーガニックウールの生産側にその旨の申し立てをしたところ
「ミュールジングしなかったら羊めちゃくちゃ死ぬと思うけど?」
と言われ
「じゃあ麻酔して、術後ケアもマメにしてあげたらどうかな」
と提案したら
「薬物治療したらオーガニック飼育じゃなくない?」
と逆に指摘され、悩み過ぎて決定が先送りになったそうです。

なんか…オーガニックって…なんだっけ…
と思っちゃいます。
ミュールジングは置いといても必要な時の治療もしてあげないって話ならオーガニック飼育なんてこっち都合のだたの付加価値の為なのに…そんなん要らんですよ…

だいたい遺伝子組み換え飼料禁止とか言ってるけど、そもそもメリノ種みたいに病気になるほどの体型に品種改良した羊って時点で「オーガニックです」って一体どうなのかな…時間がかかっても自然の進化過程に戻してあげたいです。

確かにメリノ種のウールって、フカフカで柔らかいし毛質が良いんですよね。
私はたまたま大量生産のメリノ無染色には出会わなかったので使用していませんが、出会っていたら何も考えずに使っていたと思います。

自分の日常が何を犠牲に成り立っているのかは知らない事が多いし、どうしたらいいのかわからん事は数え切れないけれど、とりあえず今こっからしか始められないので、知って、考えて、選んで、を繰り返すしかないんですよね。
その一個一個が未来を作るって常に意識しながら。

ああ今夜も、お尻の無い子羊の夢を見そう。

すべての生あるものに良い夜を。