スキタイの羊


友人からの贈り物。
「羊の物語」新宿書房(1990)
幸田露伴や安部公房、チェーホフ、マーク・トウェインといった作家たちそれぞれの、羊にまつわる文章の抜粋が記載されているのですがどれも面白くて少しずつ読んでいます。

その中で澁澤龍彦「スキタイの羊」のページに、以前私が記事にしていた架空植物「バロメッツ」のことが書かれていました。
それによると、オデリコという名の宣教師が一三〇〇年代に記した「東方紀行」という旅行記にバロメッツに関する記載があり、「カスピ山脈(現在のコーカサス山脈)において、メロンのような実がなる植物があり、実の中には血も肉もある羊が入っている」と書かれているそうです。

     
     (ジョン・マンデヴィルが14世紀に描いた果実型バロメッツ。)

タイトルの「スキタイの羊」とはバロメッツの別名ですが、スキタイとは、中央アジアから黒海北岸の地域のことで、コーカサス山脈もこの地域といえる範囲のようです。

で、私も以前の記事では、中世ヨーロッパでは木綿のふかふかが羊のなる植物だと思われていた、と書いたのですが、確かにそういう説もあり、上の画もジョン・マンデヴィルが著書「東方旅行記」の中で綿の想像図として描いたものです。
ですが澁澤氏はバロメッツ=木綿妄想説にはどうも不満があるらしく、「バロメッツはシダ植物由来」説を推しています。
それはどういうことかというと、バロメッツという名の中国北部に自生するシダ植物が実在するそうです。
そしてシダからは綿毛のような繊維が採れる為、人びとがそれを紡績して糸にしたり脱脂綿として使用していたという事実から、羊と植物の合体イメージが作られた、と。
シダって漢字で「羊歯」ですよね。羊。羊毛に似たふかふかが採れる植物。
なんだかややこしいですが、有力な説です。
しかも、バロメッツとはタタール語で子羊。
さあ。どうです。

「どうです」って言われても困ると思いますが、そもそも情報が希薄すぎてみんなの想像力がとっても豊かだった時代のファンタジーなので結論はないんですよね。
でもどうにも気になるバロメッツ。
当時の人々もうすうすそんなはずはないと勘づいていても、植物から羊が生えるという気味の悪い可愛さを含んだロマンに惹かれたのではないでしょうか。


(こちらは羊のへその緒直結型。無理があっても推したい気持ち、わかります)
ハルトマン・シェーデル著「ニュルンベルグ年代記」(1493)より

ただでさえ寝苦しい夏に、眠くならない、眠れない、とりとめもない羊にまつわるお話でした。